[韓国]裁判の流れ − チョン・ミョンソク牧師

キリスト教福音宣教会を創始したチョン・ミョンソク牧師(以下、チョン牧師)は、2009年2月ソウル高等裁判所にて女性信者に対する性的暴行を理由に懲役10年の刑を受け、服役。2018年2月に満期出所した。

目次

裁判前の状況

異端とされたキリスト教福音宣教会

キリスト教福音宣教会(通称「摂理」)を創始したチョン牧師は、1978年6月、韓国・ソウルで聖書を教え始めた。摂理の教えとは、キリスト教において常に疑問とされてきたことの核心に触れているものであり、次第に多くの人々に受け入れられるようになった。

ところが、少なからぬ伝統的なキリスト教宗派から「異端である」と非難され、あらゆる反対活動が起こった。キリスト教系の韓国マスコミを中心として、批判的な報道が続けられた。これらの報道は、キリスト教が強力な社会的影響力を持つ韓国社会においては決して小さいものではなかった。

摂理への反対活動

チョン牧師が21年間、韓国内での宣教活動を締めくくり、海外宣教に出発した1999年、チョン牧師と摂理に反対する組織「エクソドス」は、チョン牧師の数々の行為を警察に告訴するとともに、マスコミに情報を提供した。「エクソドス」は、伝統的なキリスト教の団体ではなく、ただチョン牧師と摂理に反対するためだけに組織された団体であった。

したがって、その主張は教理論争とは全く関わりのないものであった。しかし、その主張の中で、多くの女性がチョン牧師に性的被害を受けたとする主張は、摂理の教理とは全くかけ離れたところでスキャンダルを好むマスコミの注目を引き、韓国SBSソウル放送の時事告発番組で大々的に報道された。

韓国SBSソウル放送は、韓国の三大放送ネットワークの一つであるが、これを契機にさまざまなマスメディアも、続けて女性スキャンダルとして取り上げ、摂理はその教理や信仰生活については正しく知られることはなく、報道されたチョン牧師の女性スキャンダルのみが国民にあまねく知れ渡ることとなった。

放送内容は「虚偽だった」との判決

しかし、韓国SBSソウル放送は、「エクソドス」の代表者たちの一方的な主張をもとに番組を制作して放送し、かつ自らも作為的に事実を捏造して、チョン牧師と摂理を根拠なく批判していたことが報道で明らかになった。

具体的には、チョン牧師が説教した映像を放送する中で、1995年の主日礼拝「感謝する生活」と題する説教の中で「10のうちの1つを伝道しなさい」と述べているにもかかわらず、聞き取りにくく音声を操作したうえで、「女性1人伝道しなさい」と字幕を入れて放送した。明らかに「チョン牧師が女性問題を抱える指導者」と印象付けるためだったといえる。

(韓国のマスメディアが事実を捏造することは稀なことではない。2008年に右派の李明博大統領が就任した後、アメリカからの牛肉輸入自由化を表明するや、韓国MBC文化放送は時事告発番組において、狂牛病にかかった仔牛の映像を流しながら、アメリカの研究者が話した内容に意図的に異なった字幕を入れるなど報道内容を意図的に捏造したことが明らかになっている[韓国MBC文化放送は後になって虚偽報道を謝罪した。韓国の三大日刊紙の一つ「中央日報」2011年9月11日付記事参照]。当該報道の結果、何十万人が結集して都市機能がマヒするほどの反対デモが行われるなどした。捏造報道の悪影響の大きさを物語る一例である。)

韓国SBSソウル放送は、上記のような報道の結果、まず2005年に裁判所から「エクソドスの代表者たちの提供情報を報道しない」等の和解勧告決定を受けた。裁判所も「エクソドス」からの情報提供が虚偽だったと認定した内容だった。さらには、2010年、韓国大法院(日本の最高裁判所に相当)は、キリスト教福音宣教会が韓国SBSソウル放送に対して提起した損害賠償及び放送報道禁止請求訴訟において9000万ウォンの賠償命令を下した原審判決を認めた。

恣意的な世論誘導

このほか、チョン牧師と摂理に対する報道は、世論を誘導するように恣意的に制作・編集されたものが多かった。例えば、男女が活動していた行事の映像を、女性だけが画面に映るように編集することで、まるでチョン牧師が女性だけを相手にしているかのような印象を視聴者に抱かせるように放送した。

さらには、チョン牧師が海外でもわいせつ行為を繰り返していたとして、台湾検察に対するインタビュー内容を報道した中で、「今、具体的にお話しするのは難しいですが、一部被害者の陳述を確保した状態です・・・」と翻訳した。

しかしながら台湾検察は、「被害者」という表現を使っていなかった。台湾検察は、「関係者」と述べたにもかかわらず、「被害者」と翻訳することにより、前提として「被害者ありき」の報道をしたのである。台湾検察による捜査は、後に「嫌疑なし」として終了し、台湾メディアに虚偽内容を吹き込んだ情報提供者は、新聞に謝罪文を発表するに至った。

このような事実は、最近になってようやく一部の雑誌の独自取材により、世間に明らかにされるようになった。しかし、大手マスコミによる過去の虚偽報道によって一度作り上げられてしまったチョン牧師と摂理に対するイメージ、そして世間に与えた影響は多大である。

それは短い訂正報道では決して取り返せるものではなく、刻み付けられた負のイメージは、裁判の勝訴や賠償金によってさえも簡単に消し去ることはできない。まして、報道が間接的に伝わる日本のような海外の国々ではなおさらである。

告訴はすべて「嫌疑なし」で終結

数々の告訴・告発も検察当局の捜査の結果「嫌疑なし」と判断された

先に述べたように、1999年にチョン牧師が海外宣教に出発して以降、複数の元信者たちが、チョン牧師から性的被害を受けたと、韓国の警察当局に告訴状を提出した。マスメディアによる歪曲された報道や反対組織「エクソドス」の一方的な虚偽主張により、世間はあたかも告訴内容が真実であるかのように捉え、チョン牧師と摂理に対する批判を強めてきた。

韓国の検察・警察当局は、告訴された被疑事実について捜査を進めた。そして、チョン牧師が2001年2月から3月に韓国に帰国した際には、事情聴取も行われた。捜査は長期に及んだが、最終的にすべての被疑事実について「嫌疑なし」(*注)という結論が下された。そしてチョン牧師は、海外宣教のために韓国を出国した。

仮に何らかの嫌疑がある場合、韓国では「出国禁止処分」という行政措置を取ることができるので、韓国を出国できたことも、検察・警察当局が告訴事実を問題視していなかったことの結果といえるであろう。なお、この後「エクソドス」の代表者たちは、韓国の検察・警察当局の捜査権が及ばない外国で性的被害を受けたと主張していく。チョン牧師に下された懲役10年の判決は、韓国国外での性的暴行を理由とするものだ。この点については後述する。

チョン牧師が懲役10年の判決を受けて、刑務所で服役中の間も、チョン牧師と摂理に対してさまざまな告訴・告発がなされた。しかしながら、2012年10月までに検察当局はいずれの告訴・告発もやはり「嫌疑なし」との結論を下した。

*注:検察が下す結論の中で、「嫌疑なし」とは、嫌疑は認められるが起訴する必要がないとする「起訴猶予」や、被疑事実を疑わせる事情があるが立件に足りる証拠がない「嫌疑不十分」という結論と異なり、まさにその被疑事実を疑わせる事情が認められない、という結論である。

金銭要求と「脱会ビジネス」

繰り返される金銭要求

これまで述べたように、1999年以降、かくも執拗に摂理に反対してきた者たちは、女性スキャンダルに根ざした反対運動の陰で、これまでキリスト教福音宣教会(通称「摂理」)に対し、高額の金銭要求を繰り返してきたという事実が、2010年以降、メディア数社の報道により一般に知られるところとなった。

すなわち、2001年、チョン牧師に対する数々の刑事告訴はすべて「嫌疑なし」として一旦捜査が終結したにもかかわらず、その後、チョン牧師と摂理に反対する人々は、今度は韓国警察の捜査権が及ばない海外での性的暴行事件をでっち上げ、チョン牧師による海外宣教を妨害していたが、その陰で、摂理反対組織「エクソドス」の会長をつとめた金DHは、2005年11月17日、キリスト教福音宣教会に対して20億ウォン(日本円で約2億円)を要求していたことが明らかになったのである。

これに対し、摂理側は何ら非がないとして、金DHからの金銭要求を拒否したところ、彼を中心とする摂理反対組織「エクソドス」は、2006年4月18日、女性たちにチョン牧師から2006年4月に中国で性的被害を受けたとして、記者会見を開かせたのである。しかし、彼女たちの主張が客観的事実と明らかに矛盾していることは後述するとおりである。

金DHは2008年、チョン牧師が中国当局から韓国へ身柄引き渡しの決定がなされた際にも、摂理側に対し、要求金額を1億4000万ウォン(日本円で約1400万円)に下げて、改めて金銭要求したことも明らかにされた。そして再度、摂理側が金DHの要求を拒否した結果、チョン牧師は前述の女性たちの告訴により結果的に収監されたのである。

金銭トラブルと除名された元信者たち

チョン牧師が収監された後も、摂理に反対する者たちは「チョン牧師についての告訴・告発が続けば、調査を受けて量刑が長くなる」と脅迫して、個人的な金銭問題を解決しようとしていた。実際、「エクソドス」の中心人物とつながりがあるといわれている金JHは、金DHと同じように摂理側に金銭を要求し、5億ウォンを提示したものの、これを拒否されるや、マスコミを利用して反対活動を行おうと試みた。

この金JHはキリスト教福音宣教会(摂理)に長年在籍し、2009年3月から7ヶ月間、宣教会の要職についていたが、被害者70名以上、総額34億ウォン(日本円で約3億4000万円)以上の詐欺行為により、数々の被害者から告発されるなどしたため、摂理から除名された人物である。詐欺行為に関しては、一部は債務を弁済することを条件に告発が取り下げられたものの、金JHは最終的に、2012年10月19日、ソウル東部地方裁判所において懲役1年6ヶ月(執行猶予3年)の刑事三審有罪判決を受けている。このほか、騙取した金銭の返還を求められる等、自らの行いの結果として金銭に窮するようになっていたのである。

そして、金JHと行動を共にしながらチョン牧師と摂理を反対してきた金GCもまた、摂理に30年在籍したが、除名されている。在任当時、担当教会の公金を横領して株式に流用するなどの不正を行い、その後も貸金返還請求訴訟を起され、2012年裁判所から貸金返還命令を受ける等、やはり金銭に窮してきた者であった。

彼らは、摂理の内部において金銭トラブルを引き起こし、騙取したり、借りたりした金銭を返せなくなると、被害者のため、社会のためという大義名分を掲げて、チョン牧師と摂理を反対・批判し、自らの責任を転嫁しようとした。そしてその手段としてマスコミの耳目を引き寄せ、摂理に対して脅迫と金銭要求を行っていたのである。金銭という本来の隠れた目的のために「被害者」と称する女性、マスコミを利用し脅迫するという点が、前述の「エクソドス」と酷似している。

「脱会ビジネス」に手を染める人々

摂理に反対してきた人々は、摂理側が金銭要求を拒否すると、今度は反対活動をエスカレートさせると共に、会員たちが摂理を脱会する支援をすると称して「脱会ビジネス」を行うようになった。これに最近加担するようになったのが、韓国異端相談所の所長をつとめるJ氏である。J氏は牧師であり、2012年7月7日に東京で開催された「摂理問題を考える集会」にゲストとして招待された人物だが、下記のとおり、数々の前科と共に民事訴訟で多額の損害賠償を命じられたという経歴を有している。

そのような中、「脱会(強制改宗)ビジネス」がJ氏の大きな収入源であることが明らかになっている。裁判所から金融取引情報の提出命令を受けた結果、『相談料、治療教育費、後援金、改宗費』等の名目で、過去3年4ヶ月間に少なくとも3億ウォン(日本円で約3000万円)以上の金額が個人口座に入金されていたことが判明している。

<J氏の裁判・有罪判決履歴>

1) 2005.4.13 刑事1審 暴処法違反(共同監禁、強要)懲役10ヶ月 執行猶予2年
2) 2006.8.10 刑事2審  暴処法違反(共同監禁、強要)懲役10ヶ月 執行猶予2年
3) 2008.10.23 確定宣告 暴処法違反(共同監禁幇助、強要)懲役10ヶ月 執行猶予2年確定
4) 2008.12.19 民事1審 損害賠償 連帯2000万ウォン賠償
5) 2008.6.13 民事2審 損害賠償 連帯3200万ウォン賠償
6) 2008.10.9 確定宣告 損害賠償 連帯2500万ウォン賠償確定
7) 2008.1.24  民事1審 損害賠償 連帯2500万ウォン賠償
8) 2009.10.7 民事2審 損害賠償 連帯2200万ウォン賠償
9) 2010.2.11 確定宣告 損害賠償 連帯2200万ウォン賠償
10) 2001.4.3 刑事1審 名誉毀損 罰金100万ウォン
11) 2001.10.11 刑事2審 名誉毀損 罰金50万ウォン宣告猶予
12) 2001.12.14 確定宣告 名誉毀損 被告上告棄却 罰金50万ウォン宣告猶予
13) 2007.12.14 刑事1審 名誉毀損 罰金50万ウォン
14) 2008.5.29 刑事2審 名誉毀損 被告控訴棄却 罰金50万ウォン
15) 2009.9.25 刑事3審 名誉毀損  被告上告棄却 罰金50万ウォン確定
16) 2011.11.2 民事1審 名誉毀損、著作権法違反 被害者の教会に2000万ウォン賠償
17) 2012.10.4 民事2審 名誉毀損、著作権法違反  裁判中
18) 2012.1.18 刑事1審 名誉毀損、著作権法違反  罰金200万ウォン
19) 2012.10.18 刑事2審 名誉毀損、著作権法違反  罰金200万ウォン
20) 2012.10.19 名誉毀損、著作権法違反 裁判中

他人や団体を異端であると断定し、信者の家族や元信者たちから種々の名目で金銭を受け取るという「脱会ビジネス」はJ氏のみならず、複数のキリスト教の牧師やコンサルタントたちの間でも広まっており、日本でも珍しくない。そこにはもはや純粋な教理に基づく「異端」の議論はない。あるのは捏造されたスキャンダルにより社会に植えつけられた負のイメージに基づく誤った「異端断罪」である。

そこで牧師を名乗る者がしていることは、神への愛とキリスト信仰を力ずくでもぎ取ることに他ならず、彼らは必ずしも脱会させた者を神とキリストに導かない。キリスト教の聖職者として「異端」(より一般的な言葉でいえば「カルト」)から「救う」からには、その前提として、より真実で次元の高い信仰の道を示すことが聖職者としてのあるべき姿ではなかろうか。

神を教えず、キリストに導かず、ただ「異端断罪」だけを行う理由は自明である。チョン牧師と摂理を激しく反対し、脱会させるためには手段を選ばず、相談料と称する謝礼金が驚くほど高額なのは、それが単なる人助けではなくビジネスだからである。あるいは、ある人々にとっては同時に「カルト」に対する報復と正義感の体現、売名等、自己目的実現の手段として、ビジネス以上の意味を持っているのかもしれない。

物証なき裁判

数々の疑問が残る裁判過程

チョン牧師は、2008年2月20日、中国当局から韓国政府に引き渡された。その後、韓国検察当局による捜査を経て、女性元信者に対する性的暴行を理由として起訴された。

韓国検察は、被疑事実がすべて韓国国外で行われたものであったため、現場検証を含めた捜査権を十分に行使することができず、結果として何ら物証を得ることができなかった。結局、告訴した女性元信者らの証言のみを被疑事実を立証する証拠として提出したに過ぎなかった。

なお、韓国検察は、立証に窮し、日本の「週刊ポスト」「週刊現代」といった男性週刊誌まで証拠として裁判に提出していた。考えてみてほしい。日本の刑事裁判で、検察官がこれらの週刊誌を事実認定の証拠として提出するだろうか。また、裁判官がこれらに基づいて事実を認定するだろうか。そもそも検察官は証拠として提出することをためらうどころか考えすらせず、もしも提出しようとしても、裁判官は決して証拠として採用しないだろう。犯罪の立証のためにこのようなゴシップ誌を提出していること自体、韓国検察の立証能力の限界を示していると言えよう。

すなわち裁判所は、検察側が提出する告訴人たちの証言の信用性と、チョン牧師および摂理の信者たちの証言の信用性を比較して結論を出すこととなった。そして、裁判所は、告訴人たちの証言の方が信用できる、としたのである。しかし、韓国の裁判は、日本では考えられないほど冤罪を生み出しやすい実態になっている上、裁判所の判断過程も極めて不合理であり、この結論には大いに疑問が残ることを以下に述べる。

韓国司法の特殊性

偽証・虚偽告訴が異常に多い韓国の社会

下図は、韓国で最大の発行部数を誇る日刊紙「朝鮮日報」に2003年2月13日に掲載された「嘘つき事犯 韓・日 比較」と題する表である。(現在も朝鮮日報のブログサイトから閲覧可能である。)これによれば、2000年において、偽証は日本が5件に対し韓国は1198件、虚偽告訴は日本が2件に対し韓国は2965件、詐欺は日本が8269件に対し韓国は50386件となっており、日本では稀な偽証や虚偽告発が、韓国社会では頻繁に行われているという実態が見えてくる。


告訴されたとしても、その内容について十分な検証がされるべきことは言うまでもないが、特に韓国では、告訴自体、交渉や圧力の一手段として用いられている現状を知らなければならない。また、偽証が多い韓国の裁判である以上、韓国の裁判所が下す判決が必ずしも信頼できるものではないという現実を知らなければならない。

世論に迎合する韓国の裁判

「裁判は国民の名のもとで裁かれるべき」―韓国の大法院長(日本の最高裁判所長官に相当)であった李容勲は2006年、「国民に信頼される司法部」を作るべく「国民裁判論」なるものを主張した。(韓国の三大日刊紙の一つである「中央日報」2006年2月21日付記事参照

韓国の大法院長がその下にいる裁判官たちに「世論を意識しながら裁判をせよ」という無言の圧力を加えたものであるが、日本の司法に対する感覚とはあまりにも相容れないものである。

上記記事において韓国・中央大学のチェ教授が指摘するとおり、「世論は常に変わるだけでなく、操作も可能」なものであり、「国民大多数が納得できる判決」を求める姿勢自体が世論への迎合そのものに他ならない。

矛盾に満ちた証言

明らかになる証言の矛盾

2008年2月に中国から韓国に送還されたチョン牧師は、韓国国内で5名の女性から告訴されていた性的暴行の容疑で逮捕・起訴され、2009年2月、ソウル高等裁判所により懲役10年の判決を受けることとなった(2009年4月、大法院の上告棄却により確定)。この判決に対しては、さまざまな疑問が投げかけられていたが、最近になって、一部のマスコミの徹底した取材により判決の事実認定に矛盾する数々の事実が明らかにされた。

「異常なし」との診断結果

2006年4月3日に韓国人女性2名が中国・鞍山市でチョン牧師から性的暴行を受けたとして現地の公安当局に申告したのであるが、同年4月5日、中国・鞍山市中心病院が同女性2名のうちの1名(キムAさん)を診断した結果は、「検査の結果、精液なし。正常。強姦を受けた形跡なし。」というものだった。また、当時、中国の公安当局の通訳を務めた担当者も、法廷で「中国の病院の医者からキムAさんの処女膜に異常がないことを聞いた」と証言している。さらに、韓国に帰国したキムAさんに対して、同年4月8日、韓国警察病院が診断した結果もまた「処女膜に全く損傷がなく、いかなる形態であれ性的暴行の形跡を見出すことができない」というものだった。さらには、韓国の国立科学捜査研究所の精液検査結果も陰性反応だった。

ところが、同年4月10日、キムAさんは再び、韓国警察病院で診察を受けたところ、前々日とは異なり、小さな裂傷があると診断された。この裂傷はキムAさんが主張する深刻な裂傷ではなく、「自転車に乗っていても発生し得る傷」であったと、当時の診療担当医師は陳述している。この裂傷については犯罪捜査のための正式な警察病院の診察手続と異なるものであって、患部の写真撮影すら行なわれていなかった。

記者会見で主張する被害事実とは矛盾する防犯カメラの映像

告訴した韓国人女性2名は、2006年4月18日、記者会見で「ひどく性的暴行を受けて歩行が困難なほど深い傷を負い、下血をした」と発表していた。しかし、事件が起こったとされる現場近くに設置されていた防犯カメラが撮影していた映像を確認したところ、同女性2名が笑顔で、歩き方も不自由にはとても見えない姿で映っていたのである。(なお、後述するとおり、告訴した韓国人女性のうちの1名は「性的暴行はなかった」として証言を覆し、告訴を取り下げた。)

チョン・ミョンソク牧師が中国から韓国に送還されたことが意味すること

2007年4月に中国の公安当局に婦女暴行容疑で逮捕されたチョン牧師が2008年2月、中国で刑事裁判を受けることなく、韓国に送還されたこと自体、中国の公安当局は告訴された嫌疑はないと判断したと言えよう。日本人が中国で麻薬所持等の容疑で逮捕され、最終的に死刑に処された例を見れば分かるとおり、中国では内国人・外国人の区別なく、犯罪に対しては厳罰が加えられるものであるうえ、強姦罪には厳罰に処している。

仮にチョン牧師が中国・鞍山市で婦女暴行を行なっていたとしたら、中国の公安当局が捜査の上、起訴し、中国の刑事訴訟法に基づいて中国の裁判所で審理され、中国の刑務所に収監されたに違いない。しかし、中国はチョン牧師の逮捕から10か月後には韓国に送還しているのであり、中国の公安当局は婦女暴行の事実を認定しなかった。

それにもかかわらず、同じ韓国人女性2名が韓国で告訴したところ、韓国の検察・警察当局の捜査権が及ばない地での話にもかかわらず、有罪と認定したのである。(なお、残念なことに、中国の公安当局による捜査資料は、犯罪立証に不利という理由で韓国検察から韓国の法廷に提出されないまま、韓国の裁判所は審理を終結したのである。)

迎合的な宗教裁判

裁判官2名がキリスト教の教会の長老

以上に述べたとおり、韓国の裁判所が下した判決が疑わしい理由はあまりにも多い。証拠は告訴人らの証言しかなく、その証言は多くの客観証拠と決定的に矛盾し、かつ告訴人の1名は証言を覆し、「性的暴行はなかった」とまで供述したのである。告訴人らの証言は、証言の信用性の認定について客観証拠との整合性を重視し、証言の変遷の理由についても厳密な吟味を求められる近代の刑事裁判の実務に耐え得るものとは考え難い。

それにもかかわらず、裁判所は、なぜこのような刑事裁判実務の常識に反し、チョン牧師および摂理の信者たちの証言よりも告訴人たちの証言の方が信用できる、としたのだろうか。

最初にのべたように、チョン牧師が摂理を創始して以来、キリスト教はチョン牧師と摂理を「異端」と認定し、さまざまな反対と批判を繰り返してきた。キリスト教の一般の信者であっても、そのような事情は知られていた。

チョン牧師に対する刑事事件を審理したソウル高等裁判所の裁判長と右陪席裁判官は、キリスト教信者であって、その所属する教会の長老(教会内の重職の1つ)を務めていた。

彼らが果たして、チョン牧師に対する先入観や前提知識を一切有することなく、刑事裁判手続を進行することができたであろうか。韓国の裁判制度においても「忌避」制度は設けられている。「忌避」制度とは、一般に「裁判手続の公正さを失わせるおそれのある者を裁判手続に関する職務執行から排除する」仕組みをいう。

彼らは、裁判手続の公正さを失わせるに十分な利害関係を有していたと言わざるを得ない。本来であれば、忌避されるべき者たちであり、仮に忌避申立がなかったとしても、裁判手続に関与すべきではない者たちであった。

結果的にチョン牧師は、キリスト教の長老たちにより審理され、前述のとおり、客観的に相容れない証言を証拠として、懲役10年の刑を宣告されることになった。増幅した宗教感情が大きな引き金となり、罪のない人を十字架に駆り立てたと言わざるを得ない。

10年という重刑を下したこの裁判のありかたそのものが再び見直されなくてはならない。

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